腋窩多汗症(ワキ汗)について
汗の出る線は、主にエクリン汗腺とアポクリン汗腺の2種類あり、脇の汗染みに関係するのはエクリン汗腺です。エクリン汗腺から汗が出てくる時に使われる神経伝達物質がアセチルコリンです。ボトックスには、末梢神経接合部において神経終末からのアセチルコリンの放出を抑制する性質があるので、当クリニックでは、腋窩多汗症(ワキ汗)の治療に使用します。
ボトックスによる腋窩多汗症(ワキ汗)の治療は、重度の原発性腋窩多汗症には保険適用されており、軽度および中等度の原発性腋窩多汗症は自費診療です。
原発性局所多汗症の診断基準
原因不明の過剰な局所性発汗が6ヵ月以上持続していることに加え、以下の6項目中2項目以上を満たす
- 両側性かつ左右対称性に多汗がみられる
- 多汗によって日常生活に支障が生じている
- 週1回以上の頻度で多汗エピソードがみられる
- 25歳未満で発症した
- 家族歴がある
- 睡眠時は局所性の発汗がみられない
原発性局所多汗症診療ガイドライン策定委員会. 日皮会誌 2010;120:1607-1625
腋窩多汗症の重症度判定
Hyperhidrosis Disease Severity Scale(HDSS)
- 発汗は全く気にならず、日常生活に全く支障がない
- 発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある
- 発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある
- 発汗は我慢できず、日常生活に常に支障がある
3および4は重症多汗症と判定される。
原発性局所多汗症診療ガイドライン策定委員会. 日皮会誌 2010;120:1607-1625
ボトックスによる治療
ボトックスができない方
- 片側性、あるいは、左右非対称の腋窩多汗症の方
- 神経筋疾患の方 (重症筋無力症、Lambert-Eaton症候群、筋萎縮性側索硬化症など)
- 妊婦中・授乳中の方
- ボツリヌス毒素や血漿製剤に対する過敏症のある方
- 神経筋伝達に影響を及ぼす可能性のある薬剤を服用中の方 (筋弛緩剤、〈スペクチノマイシン、アミノグリコシド系、ポリペプチド系、テトラサイクリン系、リンコマイシン系〉抗生剤、抗痙攣剤、抗コリン剤、精神安定剤、ペニシラミン、キニジン、カルシウム拮抗剤などで作用増強の可能性)
- 抗血小板剤、抗凝固剤等を服用されている方
- 緑内障の方
- 慢性呼吸器疾患のある方
- 未成年の方
治療前の注意点
- 治療前日にワキの毛を剃ってきてください。
- 治療前日と当日は、制汗剤等を塗らないでください。
治療方法
- 注射20分前に局所表面麻酔クリームを塗ります。
- ベッドに横になっていただき、注射をする位置の印をつけます。
- 消毒してから、注射の前後で痛みを和らげるために冷却します。
- 印をつけた皮内か皮下の浅いところに少量注射します。
- 注射後、消毒し、点状出血のあるところのみ皮下出血予防のため、数分間圧迫します。
- 冷却し、軟膏を塗り、終了。
治療後の注意点
- 注射後24時間は注射部位を揉んだりこすったりしないでください。
- 注射後3時間は横にならないでください。
- 注射当日はシャワーのみで、翌日は注射部位のみ湯船につけないでください。石鹸を着けて洗うのは当日から可能です。
※ 過度の運動、飲酒、長湯等は避けた方が無難です。
- 避妊してください(女性:最終投与後2回の生理を経るまで。男性:最終投与後3ヶ月。)
治療経過
- 効果発現は注射後3日~1週間です。注射後2,3週間で最大効果に達します。
- 注射2週間後に効果を判定しますので必ず受診してください。
- 効果の持続は約3~4ヶ月です。
- 注射後4ヶ月で次回注射が可能です。
副作用と合併症
- アレルギー(ショック)反応 (0.01%)
- 全身性副作用 (頭痛、嚥下困難、角膜障害、全身倦怠感、吐き気など)
- 注射局所の副作用 (皮下出血、違和感、腫れなど・・・約1~2週間でおさまります)
- 他の部位からの発汗増加(5%といわれているが因果関係不明)を起こすことがあります。
- 極めてまれに細菌感染を起こすことがあります。
- 上記以外の(予期せぬ)問題が生じることがあります。
問題点
- まれに、抗体が産生され、2回目以降の注射で効果が出なくなってくる方がおられます。
- 効果には個人差があります。
- 効果があっても汗の量がゼロになるわけではありません(70%~80%程度、汗の量が減ると言われています)。臭いの治療ではありません。
- ヒトや動物由来の成分を使用しておりますが、厚労省は問題ないとしています。
ボトックスを打つことに抵抗のある方への治療法
エクロックゲル
日本で初めて保険適用された原発性腋窩多汗症用の塗り薬です。
交感神経からの汗を出す指令をエクリン汗腺が受け取れないようブロックすることにより、発汗抑制効果が期待できる薬です。
使い方
1日1回、両わき全体に塗布します。
右わき分、左わき分ともポンプ1押し分の薬剤を専用のアプリケーターの上に乗せて、そのアプリケーターを使って、それぞれのわき全体に塗り広げます。
詳細はこちらをご覧ください。(何か聞かれたら「はい」をクリック、または、タップしてください)
- 手で直接は絶対に塗らないでください。
- 手に薬剤がついた場合は、絶対に顔や目を触らず、すぐに水で洗い流してください。
- わきの薬液が乾くまで寝具や衣服が触れないように注意してください。
- 火気のないところで使用してください。
エクロックゲルを使えない方
妊娠中の方・授乳中の方・緑内障の方・前立腺肥大症の方・わきに傷や湿疹等のある方
副作用
かぶれ、口の渇き、光をまぶしく感じる等
D-tube(ディーチューブ)・D-powder(ディーパウダー)
主成分に、毛穴を収斂し汗を抑えながら抗菌作用を持つ焼ミョウバン(乾燥硫酸アルミニウムカリウム)と、臭いの原因菌を殺菌するイソプロピルメチルフェノールの入ったD-tube(ディーチューブ)・D-powder(ディーパウダー)を使用します。
D-tube(ディーチューブ)・D-powder(ディーパウダー)は、汗を抑えるだけではなく、臭いにも効果的で、手足の汗や足の臭いにも使えます。
D-tube(ディーチューブ)は量の調整がしやすいです。D-powder(ディーパウダー)はつけた直後からサラっとします。
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パースピレックス
あるいは、医療機関で処方される汗を止める液体の調剤薬である塩化アルミニウムを主成分としながらも、かぶれの原因になる塩酸を弱め、刺激やかぶれの発生を極力抑えた海外製の
パースピレックスという制汗剤を使用します。
米国FDA(日本の厚労省に相当する)が制汗剤と分類するには20%の発汗抑制が得られないといけないのですが、
パースピレックスでは特許技術によりFDAの基準をはるかに上回る65%の発汗抑制が認められており、かつ、その効果が72時間以上継続することが実証されています。
パースピレックスには手足用もあります。
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